裁判員裁判は、書面より 口頭での説得が重要!

早稲田リーガルコモンズ法律事務所  弁護士
趙 誠峰 先生
早稲田リーガルコモンズ法律事務所 東京都千代田区九段南1-6-17 千代田会館4階

裁判員裁判で無罪判決を獲得した経験のある趙先生。裁判員裁判の実態と弁護人として意識していただきたいポイントをお聴きしました。

趙先生の業務内容について教えてください。

趙先生

私は、刑事事件、特に裁判員裁判を取り扱っています。それ以外には、医療過誤事件や在日コリアンをはじめとした日本で生活する外国人の法的サポート等をしています。刑事弁護を志したきっかけは、指導教員の弁護士と学生が実際の事件を一緒に取り組むロースクールの授業でした。刑事クリニックと呼ばれるその授業を通じて、刑事弁護は非常にやりがいのあり面白い仕事だと感じ、当時の指導教員が高野隆先生だったという縁もあって、高野隆法律事務所に入所しました。その後は、早稲田リーガルコモンズ法律事務所の設立に携わり、パートナー弁護士として現在に至っています。

高野先生は、どんな先生でしたか?

趙先生

一般的には怖い人だと思われていますが、一言でいえば「飲んだくれのおやじ」です(笑)。怖いイメージとは反対に事務所の中で一番立場が弱く、事務所のスタッフが「もっと厳しくし てほしい」と思うくらいの方です。ただ、裁判所や検察に対しては全くひるみません。法的な喧嘩の仕方は、高野先生から色々と学びました。

ご出演商品(「ここを意識するだけで説得力が格段に増す! 裁判員裁判の法廷弁護技術」)の聴きどころを教えてください。

趙先生

冒頭陳述や反対尋問など個々の刑事弁護技術は、頭で理解するよりも、研修や実際の事件の中で、実践し、フィードバックをもらって、そのことを次に意識する。その繰り返しで身に付いていくものです。とは言え、裁判員裁判の中で弁護人は何を意識したらよいか、そのエッセンスを今回お話しすることはできたと思います。講演で特に伝えたかったのは、司法研修所で学んだことが実はスタンダードではないということです。例えば、これまで書面をいかに書くかばかりを私たちは教えられてきましたが、実際は口頭で説得することの方が重要だという意識にチェンジしなければなりません。その辺りについて、ご理解いただけると幸いです。

裁判員裁判を積極的に取り扱っていきたい先生方に向けてメッセージをお願いします。

趙先生

今、裁判員裁判において、裁判官はあの手この手を使って、自分たちの土俵の中に裁判員を入れようとしています。裁判員制度の導入によって、数多くの無罪判決が出た事件がありました。覚せい剤密輸事件です。荷物の中に覚せい剤が入っていると知らずに持たされている人が一定数いて、そういう人が裁判員裁判で無罪になりました。これまで、裁判官は同種の事件に対して、ことごとく有罪判決を出してきました。ところが、裁判員制度が始まって、市民の目からは「この人は覚せい剤が荷物に入っている認識ないだろ」というように見えた。その 結果、無罪となる事件が増えてきたのです。すると、裁判所は、判断基準を持ち合わせていない裁判員に対して、議論の枠となる土俵を設定しはじめました。先ほどの覚せい剤密輸事件の場合だと次のようになります。荷物を運ぶ人は、通常荷物の中に何が入っているか「特段の事情」がない限り分かっているはずだ。その「特段の事情」の有無を裁判で判断しなければならない。こういった議論の展開に裁判所はしていこうとします。裁判所が設定した土俵の上で、裁判員の人が「ああでもない」「こうでもない」という議論をしていくわけです。しかし、それはおかしくて、裁判所がいかに土俵を設定しようとも、何も知らずに来た裁判員の常識にいかに訴えかけるか、どうしたら説得できるか、そういう気持ちを常に持つことが私たち弁護人にとって大切ではないかと思います。