依頼者の要求水準で満足するのか 自分なりの100点を目指すのか

武智総合法律事務所  弁護士
武智 克典 先生
東京都港区芝公園1-1-11 興和芝公園ビル4F

裁判官の経験を持ち、2011年に事務所を設立された武智先生。裁判所に提出する書面作成のポイントや企業法務の分野において大切なことをお聴きしました。

先生のご事務所の特徴を教えてください。

武智先生

企業法務を中心に、ファイナンス関係が3割、M&A・会社関係の契約が2割、紛争・訴訟が2割。あとは知財、倒産、労務関係などを扱っています。少人数の事務所ですので、フット ワーク軽く、協力しながら事件に取り組んでいます。依頼者の方や知り合いの弁護士の先生から仕事を紹介してもらうことが多いですね。「ホームページを見て来ました」という方はいらっしゃいません。継続的に依頼者である企業の方々のお手伝いをさせていただいているというのが実情です。我々の仕事は依頼者との信頼関係が必要となりますので、大変ありがたいことだと考えています。

ご出演商品(「実際の訴状を使って解説 裁判官が考える良い書面・悪い書面」)の中で、ココを聞いてほしいという部分を教えてください。

武智先生

裁判官も忙しく、皆さんが思っているほど、時間をかけて書面を丁寧に読んで期日に臨むことができるわけではありません。したがって、代理人の弁護士としては、忙しい人に自分に言いたいことをいかに伝えるかというコピーライター的要素が求められているという気がします。講演では、伝え方についてお話しましたので、ぜひ聞いていただきたいと思います。若手の先生の場合、どうしても資料や依頼者からの情報を分析し整理しただけの書面になりがちです。しかし、分析し整理しただけの書面では不十分で、どうアレンジすれば自分の主張が正しく伝わるか。その味付けが重要になってきます。

味付けとは?

武智先生

味付けというのは、相手からの反論、裁判官の反応を想像しながら、「この内容はとりあえず落とした方がよいのでは」と考え書面の内容を削っていくような工夫のことです。訴訟を行う上で一番面白い部分ではないかと思います。書面作成時に、一つ一つどれくらい真剣に考えるかが次につながってきます。そこで依頼者の要求水準で満足するのか、さらに自分なりの100点を目指すのかが問われます。新人弁護士の場合、最初の1、2年は、見た目はどんぐりの背比べ状態で、どっちの書面が考えている書面か分かりません。しかし、年数が経つほど顕著に差がついてきます。自分の仕事にプライドを持ち、こう反論されたから、次はこうしようといった反省を活かして、骨をどれくらい折れるかで成長は決まると思います。

企業法務を取り扱いたい若手の先生に向けて伝えたいことは。

武智先生

 「打たれ強さ」と「コミュニケーション能力」を、特に身につけてもらいたいです。弁護士の仕事柄、相手側当事者から罵られたり、事業再生の場面では債権者から一日中ひたすら罵声を浴びせられたりすることもあります。つらい思い、悔しい思いをしながら、どれだけ打たれ強く頑張れるかどうか。時には依頼者と代理人というポジションを割り切って考えていかないといけない場面もあると思います。コミュニケーション能力に関していうと、交渉相手の代理人の先生と、「この事件は大体この辺が相場だよね」という話が出てきます。そういう話を率直に出来るようにならなければなりません。企業は「経済合理性」で動いていますので、依頼者も説得をすれば分かってくれることが多いです。「裁判をすると時間もお金もかかるから、大変だ」という意識をお互い持っています。この辺で終わりにして次の取引にいこうというモチベーションがどこかにあるはずですし、こうした依頼者のニーズをうまく拾い上げることが必要になってくると思います。