何が常識かを 勉強しなければ、 常識は打ち破れない

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日比谷パーク法律事務所  客員弁護士・元最高裁判事
濱田 邦夫 先生
東京都千代田区有楽町1丁目5番1号 日比谷マリンビル5階

国際弁護士の先駆けであり、元最高裁判事のご経歴を持ち、現在も第三者委員会の委員長や社外監査役等でご活躍されている濱田邦夫先生に、これまでの弁護士人生の中で 印象的だったエピソード、法律家として大切なことをお聴きしました。

これまでの濱田先生のご経歴の中で最も印象的だったエピソードを教えてください。

濱田先生

1971年から関わった、シンガポール開発銀行のアジアドル債発行案件ですね。国際的な債券発行業務の主幹事を日本の証券会社である大和証券が務め、日本法を引受契約 の準拠法とし、日本の弁護士である私がリーガル・アドバイザーとして関与した、日本の金融・証券界としても始めての国際案件でした。その当時、私はアンダーソン・毛利・ラビノウィッツ法律事務所の名目パートナーでしたが、準会員制度がありました。この案件は、発行体はシンガポールの法人、適用法は引受契約の日本法、といった英米法が関わらないものだったので、「準会員のパートナーは関与できない」と私は主張しました。一方、事務所の準会員パートナーは「シンガポール会社法の祖は英国法だから、これは英米国法に関する法律事務に入る。したがって、自分たちの職務範囲だ」と主張し、意見対立が起こりました。結果としては、準会員の関与を排除することができ、案件自体も成功しました。しかし以前から、私は準会員と日本の弁護士の役割の違いをつねづね主張しており、本案件が引き金となって、面白くないと準会員のパートナーから思われたのか、翌年事務所を実質上追い出されてしまいました。これが私のキャリアの転機になった印象的なエピソードです。

弁護士として大切にしているポリシーを教えてください。

濱田先生

弁護士の仕事の本質は、ルールを分析し、現実の状況判断をして、その中で依頼者のために何を一番にすべきか、短期・中期的に考え行動することです。目先の利益だけを考えた行動はすべきではありません。クライアントのために最善の努力を尽くすことは弁護士として大切ですが、理念や正義を常に考えながら、納得しない場合は、その案件から降りることも必要です。私自身も元最高裁判事という肩書きだけで様々なところから依頼が来ます。先生、先生とおだてられます。しかし、肩書だけで事案を処理することは難しいです。上手い具合に利用され身を滅ぼしてしまうような方も実際に耳にします。特に若い時期は、同僚や先輩の弁護士と交流をしながら、自分の職業的な人格を築くと同時に人間として幅を広くしていかないと、結局とんでもないところで判断を誤ってしまうこともあります。また話は変わりますが、コンピューターの性能が人間を超えるという2045年問題が気になります。私は「弁護士業務はどうなるのだろう」と考えます。機械ができることと同じことをしてもいずれ淘汰されてしまいます。囲碁や将棋の世界では負けてしまいましたが、これからの弁護士は、専門的な知識はもちろん、人間としてクライアントを満足させることが重要になってくるのではと思います。

これからを生きる弁護士先生に伝えたいことは。

濱田先生

常識とは何かを勉強しなければ、常識は打ち破れないということです。私の好きな作家であるバーナード・ショーは、「リーズナブル(合理的)な人は、決して新しいことができない。周りの世界に自分を合わせようとする。しかし、アンリーズナブルな人は世界を自分に合わせようとする。新しいことはアンリーズナブルな人にしかできない。」ということを言っていました。弁護士の世界でもイノベーションが大切だと言われますが、常識にとわられない発想をするためには、まず論理的な分析能力という常識を知る必要があります。しかし、その論理的な分析能力だけにとらわれたら新しいことはできません。そのためには、人間の行動を深く理解しなければいけません。例えば、債権回収の場面で、クライアントが望んでいるのが、100万円を回収することなのか、10万円しか回収できなくても取引を継続することなのか、取引停止が本意なのか、こうした「読み」といいますか、人間の本質を見て選択肢を提供することが大切です。それができないと、これから機械に負けてしまうのではないでしょうか。