交通事故案件はなくならないが 厳しいパイの奪い合いは続く

メトロポリタン法律事務所  弁護士
北河 隆之 先生
東京都新宿区新宿2-8-1 新宿セブンビル809

「理論と実務の架橋」を事務所の理念に掲げ、研究者と弁護士の二束のわらじを履いて活躍されている北河隆之先生に、交通事故損害賠償請求の現状と今後の展望についてお話を伺いました。

「実務と理論の架橋」を目指すという事務所の理念について、詳しく教えてください。

北河先生

私は司法試験合格後、通算6年間、東京都立大学の非常勤講師として自動車損害賠償保障法を担当していました。また、2004年からの3年間は、琉球大学法科大学院の教授を務めていたのですが、この法科大学院の理念がまさに「実務と理論の架橋」なわけです。実務の経験を理論に生かし、理論的な研究を実務にも生かして相互にフィードバックしていく、この理念で事務所も運営できたらいいなと思いやってきました。

事務所の特色や力を入れていることをお教えください。

北河先生

私が交通事故関係の書籍を書いているためか、交通事故を多く扱っていると思われがちですが、実はそうでもありません。死亡事故や重度の後遺障害など、難しい事件も扱いますが、全体の取扱件数から見れば決して多くはありません。事件数を多く処理するのではなく、依頼者とのコミュニケーションを大切にして一件一件の案件に丁寧に取り組む、これが弊所の特色だと思っています。

交通事故の損害賠償実務の現状、また、今後の見通しについて、どのようにお考えですか。

北河先生

交通事故の損害賠償実務の現状は理論的には安定期です。ただ、そうした中でも判例のフォローや保険の理解は必要ですので、勉強が怠れない分野だと思っています。私は、交通事故紛争処理センターの嘱託弁護士をしています。示談斡旋をしていると、行政書士や司法書士が利用する場面に出くわすことがあります。認定司法書士は140万円までなら訴訟代理権がありますが、それ以上は扱えません。そこで、本来200万とか300万を請求してもおかしくない案件でも、敢えて140万円以内に低く抑えて請求してくるケースを稀に見かけますが、被害者の権利が守られていないという点で、大きな問題ではないかと思います。また、近年は、弁護士特約の問題があります。弁護士特約があると、事案に着手さえすれば、着手金が支払われるため、その金額の請求は無理だろうという事案でも受任する人が出てきているようです。保険会社が弁護士特約に厳しくなっている理由もこの辺りにあると思っています。そして、こうした状況はある意味で、弁護士としてのモラルが問われているというのが私の率直な印象です。今後の見通しについては、これは私の個人的な感想ですが、交通事故はなくなって欲しいのですが、絶対になくならないと思っています。そういう意味ではパイはある程度広いと言えるのでしょうが、弁護士の人数が増えて、司法書士や行政書士も参入してきていますから、パイの奪い合いになっているとも言えます。

最後に交通事故案件に携わっている若手弁護士の先生に向けてアドバイスをいただけますか。

北河先生

最近はネットなどを利用して、交通事故専門とか、交通事故相談センターなどを謳って集客をはかり、事件を多く処理していくというのが流行になりつつあるようです。この状況は、かつての過払い金問題に似ているのですが、違うのは交通事故というのは事件一つ一つに個性があるという点です。本当に被害者に寄り添い丁寧に対処していくと、そんなに多くの件数を処理できるのか疑問に思います。私自身としては、確かに、そうしたビジネスモデルもあるだろうとは思います。しかし、若い人にはお金儲けだけではなく、誠実に事件に取り組むという姿勢を持っていただけたら。そう期待しているのが我々の世代なのかもしれません。