不動産オーナーに役立つ コロナ禍における法務アドバイス

吉田修平法律事務所  弁護士
吉田 修平 先生
東京都中央区築地 1-13-13
北水ビル第三7階

今回は、これまで我が国の借家権制度の創設に関わってこられ、また、最新の不動産実務にも精通する吉田修平先生に、コロナ禍の実務への影響と不動産オーナーに役立つ対応策について、お話を伺いました。

コロナ禍の影響と見られる不動産トラブルにはどういったものがあるでしょうか。

吉田先生

テナントからの賃料減額請求や支払猶予請求があると思います。さらに賃料不払に起因した契約解除や契約期間中にテナントから自発的に途中退去の申出がされることも考えられます。特に、コロナ禍の影響でトラブルになりやすいのは、途中退去のケースです。この場合、中途解約条項の有無が問題になりますが、これがない場合で途中退去したいケースや、すぐに退去したいが事前予告期間分の違約金を免除してほしいといったケースも出てくる可能性があると思います。

テナントが貸主に賃料減額や支払猶予を求めるケースは、実際に多いのでしょうか。

吉田先生

あくまで肌感覚ですが、かなりあると思います。ひと頃に比べて状況がやや持ち直してきているとはいえ、飲食業などのテナントにとって、賃料の支払が重荷になっている状況に変わりはないからです。

貸主は、この要請にどう対応しているのでしょうか。また、交渉が難航して紛争に至るケースはあるのでしょうか。

吉田先生

コロナ禍の状況では、貸主も助け合いの感覚を持っていると思いますので、多くの貸主は、こうした要請に応じる方向で対応していると思います。紛争に至るトラブルとしては、賃料不払、途中退去不可にもかかわらずその申出がなされた場合、あるいはテナントが原状回復をせずに退去してしまったようなケースが想定されます。ちなみに、私が貸主から相談を受けた場合には、賃料減額ではなく賃料支払の一部免除や支払猶予による対応を勧めています。というのも、一旦、賃料減額の合意ができてしまうと、後でコロナ禍が収束し、賃料を元に戻そうとした場合に、改めて賃料増額の合意が必要になるためです。もし、合意できなかった場合には、調停や裁判が必要になる場合も出てきます。したがって、われわれ実務家は、この辺りを整理し、理解しておくことがとても重要です。コロナ禍とはいえ、安易に賃料減額に応じるのではなく、慎重な対応が求められています。

売上が減少した事業者を支援する目的で、家賃支援給付金制度が創設されています。これについてはい かがでしょうか。

吉田先生

基本的にはかなり使いやすい制度だと思います。具体的には、今年5月から12月までの間で、1か月単位で売上が前年同月と比較して50%以上減少している、または、連続する3か月の売上合計が前年の同じ期間の売上合計と比較して30%以上減少している場合に利用できます。実際にかなり利用されているのではないでしょうか。ただ、この制度については、借地借家法の適用がある建物賃貸借契約でなければ利用できないとの誤解もあるようです。出店契約やレンタル契約等の契約でも基本的に対象となっていますので留意する必要があります。また、本制度の利用には、賃貸借契約に関する書類の提出が求められていますが、自動更新や法定更新されてきたテナントに対しては、更新後の契約書自体がなくても給付金の申請が円滑に進められるように、適切なアドバイスや対処方法を理解しておく必要があると思います。

最後に、不動産関連の法律実務上の関心事をお聞かせください。

吉田先生

所有者不明土地問題に関心があります。これに関しては、現在、法務省の法制審議会で議論されており、不要な土地の所有権放棄を認めるとする民法の改正や、相続登記を義務化する不動産登記法の改正などが予定されています。また、これ以外にも相続や相隣関係に関する法改正も見込まれていますので、この先も目が離せません。